poem - love -

物語 - フユノオト - 。

言葉で染めるのを惜しむ程

下ろしたばかりの時は白く

二人で捲る

一頁目を噛み締めている


穏やかな花びらはひとひら

落ちる花より見失いやすいけれど


小さな綻びも丁寧に

綴じ合わせ生きていく事に変わりはない


「今日も愛している」と

君に伝えよう




影まで悴む身を引き寄せ

触れた頬に香る風は青く

交わす笑顔の

二つとない事を知る


幸せな記憶はともすれば

雲の速さで流れ砕けるとしても


早春目指し逸るのは

身繕いを済ませた鳥だけじゃない


「明日も愛している」と

約束をしよう。


花になれない棘を抱いて。

花になれない棘を抱いて傷ついても

あなたは一度誓った愛を止めない


はなればなれの夢の中までどれだけ

あなたの心を痛ませたでしょう


軽く目線を外して

はにかんでばかりだけれど


明日世界が終わるとしても

その傍にいたいわ


街が模様を変えて

愛の言葉も

時代の屑になるかもしれないなら


伝えたいんだ

包み隠さず




生まれた時から出逢えていれば良かった

あなたの口癖が和らぎを与える


初々しい若葉の思いを幾つも

あなたからは摘み取ってしまったのに


花を超えて宝と

愛でられて生かされている


明日命が終わるとしたら

その胸で死にたいわ


風が灯火消して

やわ紙より軽く

時代に踊らされるかもしれないなら


棘のままでも

抱かれていたい。


柊の棘。

噎せ返る様な夏が

透き通る冬に変わり

青と黒を

塗り重ねた空で

夢はまた

星より遠くなった


季節を迷った雨が

華やぐ街を冷やして

理(わり)なき恋の

約束を交わせど

日々はまた

二人を引き離した


心模様と良く似た

柊の棘痛んで

窄めた手に

息を吹きかけたら

口づけが

今すぐ欲しくなった。


美(いつく)しき島の笹舟。

美(いつく)しき島の

神様が創った笹舟に揺られ

私は何処に着くでしょう

赤く色付いたコキアの森を抜け

流れ行くままに雲の群れを辿る


美しき島の

神様が創った笹舟に揺られ

私は誰(た)が手を取るでしょう

いつの日も揺るぎない北極星(ポラリス)となり

俯かぬ様眼差しを送る人


美しき島の

神様が創った揺られ

あなたは私に言うでしょう

「もっと早く出逢っていれば良かった」と

知らない私の昨日を撫でながら


美しき島の

神様が創った笹舟に揺られ

あなたと共に行きましょう

小さな一人乗りに隙間なく二人

寄り添い初めて呼吸が整う。


星の数ほど、想う事。

冬空の月に手を伸ばして

悴む指先に小さな光が灯る


君に見せるまで消えない様に

そっと部屋まで持ち帰ろう


その目が喜びに瞬けば

心塞ぐ曇りはハラハラと落ちて

青く晴れ上がる


明けないままの夜の行方

溜め息と問う日々は続くけれど


明日も笑顔ひとつ鏤めて

何時何時も愛する人へと

数え切れない星ほど想う事。



水無月の夕べ。

人の心は簡単に移り変わると

信じて疑わなかった


私の胸の孤独を

滑る柔らかいもの

取り上げられたはずの

安らぎに涙を零させる


温かい身体が抱ければ

誰でもいいのではない

あなただけを愛しているから


温もりを知ってしまったら

このまま一人で眠る事は出来ない


二人きりの部屋で青い海原を泳ぐ

水無月の夕べ




街角で雨を受ける紫陽花の様に

耀(かがよ)うひとときが欲しい


厚い手のひらに収まる

強がりを脱いだ頬

密やかな囁きと

撓(しな)う声が耳をくすぐり合う


寂しさ紛らわせられれば

誰でもいいのではない

あなたを一途に求めているから


肌の擦れる音さえ愛しくて

真っ直ぐに見つめられたらもう動けない


薄明かりの部屋で淡い野茨を探る

水無月の調べ。


暮来月。

抱き締め合った身体が

陽に透けていく


握る手のない夜に

幾日(いくか)軋んだ心が

流れ止まない時に

鍵をかけて離れない


抱き締め合った身体が

陽に溶けていく


収まる安らぎの中

強がりが騒ぎ出して

音を立てない為に

影を重ね浸りたい


望める事の僅かな人生も

絶えず思い遣ってくれたあなたと


愛しみの言葉で労りながら

今も幸せ探して暮来月(くれこづき)。


あくびがうつる距離。

あなたのあくびが

私にうつる

私のくしゃみを

あなたが笑う


冷たい足で

あなたにじゃれて

はしゃぎすぎた後は

子猫の仕草で

電池を切らす


ありがとう

あなただけは

私を特別な宝物にしてくれて


分け合う缶コーヒーが

すぐになくなる物足りなさを

愛でるみたいに長く

恙無い時を過ごしたい


幸せに一番近い場所から

いつも擦り抜けようとする私を

掬い上げてくれる

季節を知らない

あなたの指が好きよ。